大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和38年(オ)1029号 判決

上告人

日野邦雄

右代理人

合路義樹

稲葉正雄

被上告人

松原定一

被上告人

場垣内信夫

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人合路義樹、同稲葉正雄の上告理由第一点について。

論旨は、本件分け地を入会権行使の一形態とした原判決は、判例に違反するという。

しかし、原判決の認定した事実によれば、原判示釜山谷共有林は、釜山谷部落民共同の平等的な使用収益の目的に供されていたが、明治初年頃右部落全戸を地域的に四組に分けて釜山谷共有林の大部分を右各組に割当配分し、右各組においてはそれぞれ更にその割当区域中一部を組持の共同使用収益区域に残した上で、残余をすべて組所属の各部落民に分け地として配分したが、柴草の採取のためには分け地の制限はなく、毎年一定の禁止期間の終了をもつて、部落民一同はどこにでも自由に立入ることができたし、部落民が部落外に転出したときは分け地はもとより右共有林に対する一さいの権利を喪失し、反対に他から部落に転入し又は新たに分家して部落に一戸を構えたものは、組入りすることにより右共有林について平等の権利を取得するならわしであつたこと、そして、明治三六年分け地の再分配を行なつたが、右共有林自体に対する部落民の前記権利について他の部落民又は部落民以外の者に対する売買譲渡その他の処分行為がなされた事例は、少くとも大正六年頃までは認められないというのである。しからば、原判決が右分け地の分配によつて入会権の性格を失つたものということはできないとした判断は、正当であつて是認できる。所論引用の判例は事案を異にし本件に適切でなく、論旨は理由がない。

同第二点について。

論旨は、原判決は、持分の売買、相続登記の行なわれたことを認定しているが、その売買及び登記は分け地を目的とするものであるか否かについて説示していないのは理由不備、理由そごであり、また、地上立木に対する権利を貸金の担保とする目的で持分売買の形式をとつたものが少くないと認定しているが、その認定は証拠に基づかない違法があるという。

しかし、原判決は、甲三号証によれば釜山谷共有林について大正一一年頃から登記簿上共有持分の売買譲渡が行なわれており、時には釜山谷部落外の者に対して売買された事例も認められるが、右売買中には登記名義のない入会権者が、登記名義を有するが入会権者でないから共有名義を取得するため、又は地上立木に対する権利を貸金の担保とする目的で持分売買の形式をとつたものが少くないことが窺われる旨認定しているであつて、右認定は原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できないことはない。右認定の過程に所論違法は認められず、論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。(長部謹吾 入江俊郎 松田二郎 岩田誠)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例